忍者(ニンジャ・Ninjya)伊勢三郎義盛【日本の侍(サムライ・Samurai)】

平安~鎌倉の時代に実在した忍者 伊勢三郎義盛 いせさぶろうよしもり

  • 氏名 伊勢三郎義盛 いせわぶろうよしもり Ise Saburou Yoshimori
  • 生没年 ?~文治2(1186)年
  • 出身 伊賀
  • 主 源義経

伊勢三郎義盛

伊勢三郎義盛(いせさぶろうよしもり)は源平争乱期の闘将の一人で、源義経の副将として華々しい活躍を遂げました。忍者研究者の間では、通称を三郎といったこの義盛を義経流忍術、あるいは伊賀流忍術の大成者とみなす向きがあるそうです。

通説では、義盛は伊賀才良(さいりょう・三重県伊賀市)の出身で、元は多数の手下を有する鈴鹿山賊であったとされています(義経記)。のちに、義経に属して文治元(1185)年の屋島の戦い(やしまのたたかい)や壇ノ浦の戦いで奮戦し、平氏の討伐に貢献しました。しかし、翌年、義盛は伊勢(三重県中央部)で鎌倉の守護と激闘を演じた末に、敗れて自刃します。首は京都で晒(さら)されたといわれています。

また、義盛を上野(こうづけ・群馬県)や伊勢の出身とする説もあり(『平家物語』ほか)、墓碑や供養塔、首塚とされるものが、群馬県安中市(あんなかし)の常楽寺(じょうらくじ)のほか、三重県四日市市(よっかいちし)の西福寺(さいふくじ)やその近くの田畑のなかにあります。

忍術との関わりでは、『萬川集海』などの忍術書に義盛が詠んだという、『義盛百首(伊勢義盛及び軍歌)』なるものが収録されています。これは義盛が忍術の極意を歌に織り込んだといわれるもので、なかには、「忍びには 習いの道は 多けれど 先づ第一は 人に近づけ」という有名な歌も含まれています。後世の忍者は『義盛百首』を意識していたともいいます。ただ、個々の歌や字句の文法が平易で、到底、源平争乱期のものとは思えません。後世の何者かが創作し、義経の副将であった義盛に仮託したものであるとする説が有力です。

忍者の心得を歌に残した伝説

伊勢三郎義盛は、もともと鈴鹿山(三重、岐阜、滋賀県)の山賊で、のちに源義経の家臣として数々の戦いで勇名をあげた人物だと言われています。ただし、彼自身は忍者らしい術や忍者的行動をしていたという伝承を持つわけではありません。

それにも関わらず、彼が忍者であるといわれる所以(ゆえん)は、軍法書『軍法侍用集(ぐんぽうじようしゅう)』に収められた「伊勢三郎義盛忍百種(しのびひゃくしゅ)」(または「よりもり哥(うた))「よしもり百首」によるところが大きいようです。

これは彼が忍者に必要な心得を「五・七・五・七・七」で詠んだとされる和歌(忍歌・にんか)を百首集めたものです。この忍歌は忍術の秘伝書『萬川集海(まんせんしゅうかい)』にもたびたび引用されているため、その作者とされる義盛自身が、忍者の礎に深く関係した源流のひとりと推定されることになったのでしょう。

しかし、実際にはこの忍百首が書かれたのは江戸時代に入ってからであり、じつのところそれぞれの歌が義盛本人の詠んだものかどうかさえ疑わしい面もあります。とはいえ、忍歌に忍者の神髄がわかりやすく詠まれていることは事実です。

こういった点から、現実に彼が忍者だったのかどうかは分かっていませんが、楠流忍術の秘伝書『正忍記(しょうにんき)』には、「日本の忍びは古くよりその名ありといえどもこれを知ることは源平のころ、源九郎義経”勇士”をえらんでこれを用ゆ」と記されています。ここにいう義経が用いたとされる忍者に、彼が含まれた可能性も捨てきれません。

なお、彼は姓を伊勢と名乗っていますが、『吾妻鏡(あずまかがみ)』『義経記(ぎけいき)』『平家物語(へいけものがたり)』などの書をみても出生地は判然としません。伊賀国(いがのくに・三重県)の才良村(さいらむら)出身の人物であるともいわれますが、真偽は不明です。

そもそも、彼が仕えた義経は幼少時より鞍馬山で天狗や鬼一法眼(きいちほうげん)から武術を学び、独自の忍術「義経流」を大成したとされています。さらに、義経の部下であった常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)も元は修験者で、100歳または1000歳まで生きたともいわれる不思議な伝説をもつ丹波の忍者との説もあります。

義盛が義経ゆかりの忍術を見につけた忍者だという考えも、あながち荒唐無稽とはいえないかもしれません。


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