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忍者(ニンジャ・Ninjya)加藤段蔵【日本の侍(サムライ・Samurai)】
戦国時代に実在した忍者 加藤段蔵 かとうだんぞう
- 氏名 加藤段蔵 かとうだんぞう Katou Danzou
- d生没年 不詳
- 一匹狼の忍者
- 通称 鳶加藤・飛び加藤
加藤段蔵は、「永禄の比、鳶加藤(とびかとう)と云者(いうもの)、最(もっとも)妙手の名有(あり)」と『近江国與地志略(おうみのくによちしりゃく)』にある忍びの達者です。
伊賀、甲賀(こうか)、いずれかの系統の者か定かではありませんが、「鳶加藤」のほかに「飛び加藤」とその名を記す書もあります。高所に飛び、また降ること、変幻自在の妙手を得ていたことからつけられた名です。
この段蔵が、あるとき越後の上杉謙信のもとに来て、にわかには信じられない妙術の数々を披露してみせた話が、江戸時代前期の仮名草子(かなぞうし)作者、浅井了意(あさいりょうい)の『伽婢子(おとぎぼうこ)』に書かれています。
謙信は忍びの術者をよく用いた戦国武将のひとりとして、その名を忍書『萬川集海(ばんせんしゅうかい)』にとどめています。『越後軍記』にも謙信が七人の忍びを甲州、越中(えっちゅう)、能登(のと)、加賀(かが)へ、国情などを探らせるために放ったことが書かれています。
そういう忍びを好む謙信に、段蔵は単身、自分を売り込んだのでしょう。ただし、段蔵が越後に来る前にその名をとどろかせていたと『伽婢子』が記している常陸国(ひたちのくに)秋津郡がどこなのか、特定できません(茨城県鉾田市の秋津村ではないようです)。
ともあれ、段蔵が春日山(かすがやま)城下で群衆に見せたのは忍術というよりは、幻術に属するものでした。手を変え品を変え様々な術をしてみせたあと段蔵が行ったのは、いわば「呑牛(どんぎゅう)の術」と称すべきものでした。ぺろりと一頭の牛を呑み込んでしまったというのです。
古代に中国の芸能として入ってきた散楽(さんがく)の雑技に「馬腹術(ばふくじゅつ)」というのがあります。馬の尻の穴から口へと抜け出る術です。この場合は、人間が馬の腹の中へと消えると見せかけるのですが、これが次第に馬が消える術に変化したといいます。つまりは馬を呑み込むかたちになったのですが、段蔵の吞牛術はこの類(たぐい)の術だったのでしょうか。ところがこれを近くの松の木の上から見物していた男が、「まことは牛を呑んだのではない。牛の背に乗ったばかりじゃ」と言いがかりをつけました。段蔵は腹を立てました。近くにあった夕顔の双葉を段蔵が奥義であおぐと、にょきにょきとその茎が伸びて、果実をつけ二尺(約61センチ)ほどの高さになりました。段蔵が、ちょっとその蔕(へた)を小刀で切ったとみるや、くだんの松の木の上の男が、まっさかさまに落下しました。彼は首をすっぱり切り落とされていたというのです。ちょっと怖い話ですね。
余談になりますが、戦国期の加賀の兵法者に草深甚四郎(くさぶかじんしろう)という者がいて、「水切りの術」という術をよく行ったと伝えられています。桶(おけ)に張った水を小刀一閃、切ると同時に、はる後方を歩いていた男が両断されて息絶えるというものです。遠隔殺法のような術ですが、段蔵のそれも、これと似ています。
この段蔵の妖し(あやし)の術の噂は謙信の耳に達しました。ようやく謙信の前に召し出された段蔵は、手に一尺余(約30センチ)の刀さえあれば、いかなる堀、塀も飛び越えて城中に忍び入ることが出来まする、と明言しました。ならば直江(なおえ)の館に入り、その長刀を奪い取って来てみせよ、と謙信は命じました。この直江を『伽婢子』は、「直江山城守(なおえやましろのかみ)」と記していますが、謙信股肱(ここう)の臣・直江大和守景綱(なおえやまともかみかげつな・名軍師・直江山城守兼続⦅なおえやましろのかみかねつぐ⦆の養父)[1] … Continue readingのことでしょう。
さて、直江方では水も漏らさぬ警戒網を張ったうえ、村雨(むらさめ)という名の逸物(いちもつ)の番犬まで備えていました。が、その犬を毒殺してから、結局、直江の長刀のみならずその室の召し使っていた少女を眠らせたまま奪取してのけたのでした。
謙信はこの妙技を、かえって空恐ろしいものに感じて段蔵討ち取りを命じました。これを察した段蔵は鼬(いたち)のごとく越後を逃げて甲斐(かい)に行き、武田信玄(たけだしげん)の将跡部大炊助(あとべおおいのすけ)[2] … Continue readingに奉公を乞いました。しかし先に忍びの者(段蔵)に秘宝(『古今和歌集』といわれる)を盗まれた苦い経験から、信玄は家来に命じて段蔵を討たせたといいます。
一芸がかえって身をほろぼす原因となった”一匹狼”飛び加藤の最後でした。
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